Exhibition Review – July 2020

simple bed

by 東山詩織

Place:Token Art Center東京都墨田区東向島3丁目31-14
Period:2020年6月6日(土)- 7月12日(日) 【会期終了】


作品制作の起点は、蚤の市やオークションで収集した古い手紙や日記から着想するなど、個人の生活や営みなどだという。
幾何学的な構造が誘うのは、幽閉や拘束か、はたまた私的な聖域や自由か。描かれる世界は監視社会かシスターフッド的ユートピアか。数珠繋ぎのように連なる簡素な三角形のテント。そこから顔を覗かせる女性たちは、互いを監視しているようにも、解放された喜びを謳歌しているようにも、自らの意識の深層を覗き込み、深淵に消えていくようにも見える。神秘的(でちょっと狂気的)な作品の、カルト的魅力の虜になる人も多いのではないだろうか?

新水晶宮
New Crystal Palace

by 遠藤麻衣 × 百瀬文

Place: TALION GALLERY 東京都豊島区目白2-2-1 B1
Period:2020年7月4日(土)- 8月2日(日)
展覧会概要のPDFはこちらから。


 演じることと身体、眼差しと欲望、ジェンダーとセクシャリティについて、多様な角度からアプローチを重ねてきた、ふたりの作家による初めての共同制作。本展では、「理想の性器」をひとつのキーワードにした、2つの映像作品(新作)が展示される。
 日本では、セクシュアリティにまつわるイシューは恥やタブーであるとして、公に議論することは躊躇われる。その無言の圧力に抗うかのように、セクシュアリティをテーマにした作品は、シリアスで過激な表現として描かれるものが多い。しかし、本展で展示される作品は、「新水晶宮」というタイトルの通りとてもクリアで明るい。それは、種や性の問題としてではなく、純粋に2つの個体が交わる〈個体×個体〉という視点で描かれているからだろう。陰に隠されている部分、陰でこっそり見ないといけないと感じさせる要素が微塵もない。ああでもないこうでもないと、理想の性器の形態と交わりについておしゃべりしながら粘土をこねる、人工物なのか生物なのかよくわからない、ぬいぐるみのような姿に転化して交わってみる。一方的な啓蒙ではなく、〈遊び〉の中で性器と快楽のオルタナティブを想像する。その軽やかさは、性教育のみならず、タブー視される話題との向き合い方のヒントになるのではないだろうか。

ときに川は橋となる
Sometime the river is the bridge

by オラファー・エリアソン Olafur Eliasson 

Place:東京都現代美術館 東京都江東区三好4-1-1
Period:2020年6月9日(火)- 9月27日(日)


 オラファー・エリアソンと言えば、芸術祭や大型の企画展の常連作家としてプリズムや鏡などを媒介にした〈光学的〉な仕掛けが知覚を刺激するイマ−シブ[immersive]なインスタレーションで広く知られる作家だろう。そんなオラファーの10年ぶりの大個展が開催中。コロナ禍で会期変更を余儀なくされたが、アートをエコロジーの視点で見直そうとするアプローチ1)は、脱・人間中心主義が焦眉の問題となったwithコロナ時代において、まさにタイムリーなトピックの展覧会である。
 既にたくさんの展覧会評が出ているので、ここでは彼の制作意図のコアがシンプルに表現されていると感じた、最後に紹介される作品について言及しておきたい。「Innen Stadt Außen(内-都市-外)」展(2010年, ベルリン)の実験として行われた作品の写真記録の展示である。ベルリン市内の至るところに、鏡を設置する、線を引く、などシンプルな仕掛けをゲリラ的に(暴力的にとも言えるが)挿入することで、〈都市〉という自然と人工物の境界、人間(特定の誰か)都合で決められた境界を問う作品だ。まず身の回りのエコロジーを思考すること。それが、「地球環境」という漠然としたスケールの問題に眩まないようにするためには重要だ。あるスペシフィックな問題を、大きすぎるフレームや言葉で回収してしまうことが、いかに非道徳的な行為であるかは、昨今の社会問題を巡る議論からも明らかなことだろう。
 観客はただ受動的に見るだけではなく、能動的に作品の一部として参加することで、盲目的にエコ意識を再確認することになるだろう。しかし、目の前にあるものがすべてではないことを思案させるのもアートの役割である。例えば、グリーランドで流れ出した氷山の一角をCOP21開催中のパリの街中に展示することで、文字通り「氷山の一角」として環境問題を展示した作品は、本当にエコと言えるのだろうか?氷を溶かさずにパリに輸送するために、どれだけのエネルギーが必要だったのだろうか?
 デザインミュージアムさながらの、サステナブル素材のリサーチゾーンのキャプションの正直さに、その葛藤が読み取れる。(kvadratとのコラボレーションで開発中というテキスタイルに)「開発中のため、これ(展示品)はまだサステナブルではありません」2)環境に配慮する姿勢をもつこと、まだ実現できなくても試行錯誤すること、そしてどの段階にいるのかを明確に示すこと、それが同時代性[コンテンポラリー]のスタンダードになるのだろう…


参照

1)オラファー・エリアソン:アートをエコロジーの視点で見直すこと (2019年4月23日) ダイジェスト版 約8分
オラファー・エリアソンは、東京都の自粛要請に伴い、美術館が閉鎖されていた期間、Rhizomatiksのライブ配信番組Staying Tokyoにもゲスト出演した。(アーカイブが残っていないため、タイムシフトでの視聴は不可。)
2)観賞後のメモから。会場内の文章と完全に一致してはいない可能性がある。

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