那須で2泊3日のcreleisure

那須で2泊3日のcreleisure

ー「マリッジブルーだね。」
結婚はしないけど、多分この言葉が今の私の精神状態を表現するのに1番近い。アメリカの心理学者ホームズ&レイ(Halmes&Rahe 1967)の『ライフイベントの社会的再適応尺度』1) によると、転職によるストレスは親友の死と同程度らしい。飛び込んでしまえば、〈きちんと〉2) 日々生きてゆく、というよりも勤めを果たしていくべく、悩んでいる〈暇〉なんてないのだろうけど、1週間しかないインターバルは大いにモラトリアム。当分は逃げられない東京から、どこでもいいので逃げたかった。しかし、以前の記事の通り、ただの〈1人旅〉はもうしたくなかった。今まで行ったことがなくて2泊くらいで行けそうな候補地は数えきれないくらいあるのだけど、どうもしっくりこない。予定が急過ぎるので、会いたい人たちとも都合は合わない・・・適当な場所を見つけるのには随分と苦労をした。そんな時、twitterで目に飛び込んできたのが、石上純也の「水庭」。(同氏と言えば、今年のパリのカルティエ財団での展示:Freeing Architectureも大変な好評だったのだとか。)〈公園/庭園考察〉が最近の研究題材であることもあり、これは見ておかねば…と反射的に目的地が那須に決まった。自然に囲まれながら読書と執筆活動。ここなら、旅ではなくてcreleisure3)ができそうだ。

/身体性を伴う自然体験

そもそも、この「水庭」は、二期倶楽部が運営する「アート・ビオトープ」という施設の〈庭〉として作られている。ゆくゆくはこのビオトープを眺めながら宿泊することのできる施設が、レストラン棟(同じく石上純也設計)と、コテージ棟(坂茂設計)でオープンするらしい。その開発のために伐採することになる木を生かすためのビオトープづくりなのだ。318本もの木を、1つ1つのナンバリングして、ドイツ式(木の根っこと周辺の土ごと動かす)というコストと時間のかかる方法で、1年かけて移植したそうだ。木の周辺には、有機的なかたちをした160もの人口の湖が連なっていて、地面と水面を一直線に保つように水量調整されながら循環している。自然の雑木林の配置とは対照的に、全ての木が重ならないような計算したという配置はやや恣意的すぎる気もしたし、人の手で水量を調整しないと維持するのが難しいというデザインにも少し懐疑的ではあったのだけど、すぐそこの成果が求められるこの時代に「100年かけて育てていく」覚悟をもって水庭をつくった(発注した)その事実をまず賞賛したい。水面に写し出される外の景色のリフレクションにたまにハッとさせられながら、飛び石のような路を無心になって辿っていく・・・鑑賞を超えた体験は〈身体性〉無くしては語れないので、もう多くは語りません。6月に完成したばかりで、アメンボとたまに飛んで来るトンボくらいしか生き物には出会えなかったけど、何度も足を運んで成長を見守っていきたい。

追伸:

二期倶楽部と言えば、テレス・コンラン卿のインテリア・デザインとしても有名な宿泊施設で、いつか必ず行きたいと思っていた宿の一つだった。ところが、今回の滞在をきっかけに知ったのだが二期倶楽部は2017年にクローズ。なんと星野リゾートに買収されてしまったらしい。きっと開業したら話題になるのだろうけど、他人の褌で相撲をとる感が否めないのは私だけなのか・・・二期倶楽部の営業終了のご挨拶を読むと、豊かだけど厳しい自然と向き合いながら、人にも自然にも〈サステナブル〉な場所を少しずつ作ってきたのだなあと。不思議とここに綴られた想いは、文章を読む前に実感できていたし、こういう〈サステナブル〉な思想が息づく宿(リゾートとは敢えて呼ばない)でないと、一時の快楽ではない、本物の心地よさを感じさせることはできないのだと確信した。

良いリゾートには美味しい食を楽しむレストランがあり、簡素でも清潔な寝具が用意されたホテルがあり、その上芸術文化を楽しめる施設が併設されている。そして、そこに良い人々が集い、共に味わい人生を愉しむ。そうした 「アートコロニー=美しい村」をめざして歩んできた那須の自然と大地への想いはかわることはありません。営業終了のご挨拶

参照


1)The Holmes-Rahe Stress Inventory
2)獣ゆく細道への形而上的あこがれ(10.27.2018)から
3)以前の記事レジャー考察でも紹介した、アーティストHélio Oiticicaが提唱したcreativeとleisureを組み合わせた造語。

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