ひらたくまっすぐ閉じていく

キャンセル、リスケのため、空白期間のできていたgoogle calendarが少し忙しくなってきた。オンラインイベントや、期間限定公開のプログラムを逃さないようにするためのリマインダー。スケジューラーを予定で埋まる安心感は、孤独からの解放というより、内省的な時間から目を背けている証拠。自分の欠点を自覚すること、どこにも正解のないビジョンを描こうとすることよりも、何かやっている感の方が楽だから。それでも、何かのヒントを探して彷徨ってしまうのだけど。

日中はメールで仕事しながら、時々オンライン会議を行い、朝晩はVODで映画を見るか、配信(youtubeライブ、トークイベントのストリーミング、舞台公演1)など)を見る。人や出来事が一様にひらたく、まっすぐになった。人は画面という〔平面〕の中に存在するものになった。もちろん、買い物や散歩など生身の人間とすれ違うことはあるが、他人の実体はあっても自分の実体がそこにあるように思えない。不可逆的な出来事は直線的なタイムラインというデータとして完結し、可逆的とさえ言えるようになった。こういった単純な意味だけではない。いびつだった(悪しき)従来の慣習が半強制的な新しいシステムの導入と働き方によってアップデートされ、〔標準化〕されつつある。仕事から人間関係まで、あらゆる次元の違う出来事が〔等位〕になり、もつれあった複雑な他者との関係性の中ではなく、自分の時間ひいては人生という〔1本の軸〕を基準に清算されようとしている。〔やさしい(平易な)〕知的財産の共有という点ではインクルーシブになっているかもしれないが、実際の人間関係という意味ではエクスクルーシブになっているような気がする。無自覚のうちにひらたくまっすぐ閉じていくコミュニティは、連帯/団結[solidality]に繋がるか、それともネオ・ムラと化して分断へと向かってしまうのか?

平たい

(読み)ヒラタイ ひらた・い
(形) [文] ク ひらた・し
①凹凸がなく広がっている。たいらだ。 「 - ・い土地」 「 - ・い皿」
②言葉などが、わかりやすい。あらたまった言い方でない。 「 - ・い言葉で説明する」 「 - ・く言えば」
③角立っていない。柔らかい。やさしい。 「彼は…お延に対して-・い旦那様になつてゐた/明暗 漱石」
[派生] -さ ( 名 )

出典 三省堂大辞林 第三版

もう8年ほど前のことだかな。大学に入学したばかりの頃、ある1人の教授のオンラインレクチャーに驚愕したものだ。しかも、音声だけで動画すら無かった気がする。当時のシステムでは、助手と生徒が同じ現実空間(教室)に〈集まっている〉ことが大前提で、教授が遠隔でも何とか成立しているという状況だった。しかし、さらに技術は進歩して、それぞれがバラバラのGPS的現在位置に身を置きながらヴァーチャル空間に集まるという生活様式が可能になり、そしてこのコロナ禍によってオルタナティブとして瞬く間に定着しつつある。

しかし、オルタナティブとして定着しつつあると私が思っている状況は実態に即したものと本当に言えるのだろうか?私がサンプルとできるのは、知人とせいぜいその友人くらいの範囲で、そもそもある程度、年齢や志向が似たクラスターということになる。局所的に見てそこに合わせて均してしまえばグラフはひらたくなる。逆に超マクロで見たら、差はあっても微差として均されてしまうのかもしれない。十分なサンプル数、適切なスケールとは?どんな情報にもバイアスがかかっているということは忘れてはいけない。

ひらたくまっすぐしていいところがされなくて、してはいけないところがそうなっている、あべこべな国家・・・もういっそのこと、素直にピントがズレていることを自覚して、形式ばった議案としてではなく、文字通り〔叩き台〕として差し出してくれないだろうか。ひらたくまっすぐ権力で押しつぶされたものは要らない。意志をもった一打一打で、新しいフォルムを現していかないといけない。まだ見えないフォルムを。どんなフィクションよりもフィクショナルな国に生きているこの危機的な状況を、自分たちの手で変えていかなければならないということを、コロナ禍が収束しても忘れたくないものリスト2)に入れておこう。

あとがき

人が「もの」を視覚で認識する時には、光学的な意味で「みて」いるだけではなく、同時に触覚的に「みて」もいるのだと言う3)。人間がひらたくなることで失われた感覚を取り戻したいという潜在的な欲求が、粉をこねる・豆を煮る・植物を育てる・・・といったプリミティブ回帰的な動きに繋がっている? 


参照

1)みなさんのオススメチャンネルは何ですか? 私の1番の楽しみは、ウィークリーで配信されているNDT(Nederlands Dance Theater)のアーカイブです。
2)『コロナの時代の僕ら』
Paolo Giordano(パオロ・ジョルダーノ)著,飯田亮介(訳), 早川書房, 2020年
小説家であり、物理学博士でもある著者が、コロナ時代に生きる葛藤や後悔を抱きながらも、〈関係性の学問〉としての数学(科学)的視点から、パンデミックな世界を冷静に記した覚書のような作品。今とこれからを生きる人類の1人として、人間本位の身勝手な感覚、境界、時間や意識を問われます。
3)『メイキング 人類学・考古学・芸術・建築』
Tim Ingold(ティム・インゴルド)著, 金子 遊(訳), 水野 友美子(訳), 小林 耕二(訳), 左右社, 2017年
社会人類学者である著者が、教鞭をとる大学での4つのA:アート[Art]、建築[Architecture]、人類学[Anthropology]、考古学[Archaeology]を融合した教育課程をベースに執筆した本書は、理論と実践を行き来しながら、自分自身の知識や知恵を生成:メイキングするための標となります。

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