白昼の微酔、暗号としてのペイストリー Tipsy Pastry without Shame

東京に住んで10年近くになると、幻になってしまった場所というのがいくつか存在する。

Neue.(ノイエ)もそのひとつ。パフェとワインがメインのお店(+ガトー(焼き菓子)のテイクアウト)で、昼〜夜にオープンしていた気がする。だから、パティスリーだけどバーのような印象でもあった。初めて訪れたのは3年前くらいだったと思う。パフェとお酒って当時は斬新でとってもパンクに感じた。(数年後その地に住むことになるとはつゆ知らず)下北沢という街にはまったく縁がなく、いつかまたと思っているうちに再訪の機会を逃してしまい、テイクアウトの焼き菓子しか食べられないまま閉店となってしまった。

そんなNeueのお菓子を久しぶりに食べることができる。メニューは毎回少しずつ異なるが、これまでプリン・ガトーショコラ・チーズケーキ・レモンケーキとマンゴープリンを頂くことができた。

プリンを一口食べた瞬間、あの忘れられなかったのカヌレの記憶が蘇る。バニラに続いて、ふっと香るリキュール。濃厚な卵の味が感じられる丁寧なベース(生地)に、しっかり苦いカラメル。お酒の香りと苦みの絶妙なバランスを探していたことに気づく。赤ワインで舌触りなめらかなガトーショコラは、爽やかで甘いバナナがチョコレートの苦さを引き立たせている。

お酒の効いたスイーツを口にすると、あの夏のMOMATサマーフェス(国立近代美術館、2015年)、キノイグルーがセレクトした短篇集の野外映画上映会で見た1つの作品を思い出す。

舞台はフランスの田舎のとあるパティスリー。フランスならどこにでもありそうな何の変哲もない店なのだが、何だか異様な光景に映る。入れ替わり立ち替わり訪れるお客が全員ムッシューなのだ。甘党のかわいいおじさんたちを描いているわけではもちろんない。取り憑かれたように何個もケーキを頼む。ムッシューを虜にするケーキの秘密とは…?それは、店主であるマダムの菓子づくりが描かれる厨房のシーンで明らかになる。グラス片手にお菓子をつくるマダム。リキュールをグラスに、そして生地にドボドボ…またドボドボ… ムッシューたちのお目当ては、アルコール依存症のマダムによるアルコール濃度高めのケーキだったのだ!ケーキなら真昼間に食べても咎められない。ムッシューがたむろするのは、パティスリーという名目のバーだったというわけ。作品名をメモするのを忘れてしまって、「french cinema patisserie」と検索してみても数多ヒットして見つかるはずもなく、この映画も或る意味で幻となってしまった…

こっそり昼から一杯誘いたいなら、コードは何にしよう?

背徳感たっぷりの、「サヴァランいかが?」


Neue.(ノイエ)

菅原尚也氏によるパティスリー。店舗名の〈ノイエ〉は「〜の家」を意味する。パフェを中心とする独創的でありながら洗練されたスイーツとヴァンナチュールワインを楽しめる、夜がメインの営業スタイル(18時オープン※休日は15時〜)で数多くの雑誌で取り上げられるなど話題を集めたが、下北沢の実店舗は惜しまれながら閉店。
自粛期間中から、渋谷のビストロ「リベルタン」でテイクアウト専門のケーキ販売を不定期に行っている。
販売日の前日にinstagramのストーリー上で告知、DMから予約。返信をもって予約完了だが、発売後30分〜1時間未満には予約が埋まってしまう。

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